風呂屋のオヤジの番台ブログ

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ホラホラ…ホラ?

 30年来の常連男性であるSさんが亡くなった。

 88才である。

 開店早々の脱衣場では、いつもSさんと一緒に入っていた湯友とでもいう96才と87才のお二人がSさんの訃報に淋しそうに話している。Sさんとは、お達者トリオとでもいうべき3人だったが、その仲間が欠けたのである。お互い高齢なだけに切ないであろう。

 Sさんは明るくて元気な人だった。浴場広報誌「1010」に「銭湯には不老長寿の人もいる」として書かせてもらったことがあった。会社を定年になってから自転車を始め、南は大阪から北は青森まで自転車で走り回り、自転車が趣味の人だった。80才という傘寿の坂を越しても巣鴨のお地蔵さんなどへ気軽にペダルを漕いでいくということでアタシらを驚かせていたんだ。

 そんな不老長寿と思わせたお人が、昨年、大病を患い入院手術をされてよりめっきり弱られた。一回り細くなり、杖をついて、それでもお風呂へきていたんだが、そのうち饒舌だった口調もめっきり少なくなり暗くなってきた。やがて再入院をされ不帰の人となってしまったのである。

 さて、Sさんの訃報を聞いての脱衣場である。

 「Sさんのお葬式は火葬場が混んでいて一週間以上も先になるんだって」

 と教えてくれたのはSさんの隣近所に住んでいる83才のおばちゃん。この方もやはり30年来の常連さんである。Sさん同様明るくて話好きなおばちゃんだが、近年少々ボケが、イヤいや弱られた感じである。しかしこのおばちゃんは生来の明るさからトンチンカンの会話をしても明るくて嫌味がない。

 前にこんなことがあった。いつも布製の大型な袋に風呂道具と一緒に入浴券を入れてくるんだが、よく入浴券の入ってる場所がわからずにゴチャゴチャと袋の中をかきまわすんで、アタシが袋についているポケットに入れておくよう指示?したんである。それからはすんなり入浴券を出すようになったんだが、この時はもう入浴券をアタシに渡したと思っちゃったのか、アタシが催促すると

 「今、渡したじゃない、大丈夫?よ〜く考えてみて」

 とのたまわれた。アタシャ、大丈夫かと言われてヘンな気分になっちゃったね。

 さて、またSさんのことに戻ろう。おばちゃんが続ける。

 「Sさんのお葬式は一週間も先になるから、その前に知り合いの人が集まってお線香をあげるんだって。あたしも行かなくっちゃね」

 「ホウ、高齢化時代で葬儀屋さんも火葬場が混んでいるんですなあ。それで、知り合いが集まって供養をするっていうのはどこでやるのかな?」

 「○○さんちのそばの……ホラホラ……」

 「ホラホラって、どっかのお寺でやるの?」

 「そっ、××通りを言ったところにあるお寺?、ホラ……」

 「ホラホラばっかりじゃわかりませんよ」

 「あたしも思い出せないわ」

 ということで脱衣場へ入られたのだが、程無くまたアタシんところへ戻ってきた。まだお風呂前である。

 「Sさんのお寺、わかったわ。Y寺よ、Y寺」

 「そうですかぁ。誰か知っている人が脱衣場にいたのかな?」

 「そッ、ホラホラそこにいる人よ」

 「そこにって、誰なの?」

 「ホラホラ、お風呂に入りにきた人よ」

 ヤだねえおばちゃん。うちのお客さんはみ〜んな風呂へ入りに来た人ばっかりですがな−−。






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