ほんとに不老長寿だねえ
開店である。
いつもゆったりゆったりと見えられたご老体。
毎日に近い常連さんでオン年96才という当湯(うち)の男湯では最長老である。以前もこのブログに登場してもらったことがあったと思うけど、今日はフロントで茶封筒を置かれて料金を払われた。アタシャ何気無く封筒を眺めたら、「満州電業会」と書かれてある。ホウ、満州とは今時もう目にしない言葉じゃないか。
アタシは早速お聞きした
「満州にいたことがあったんですか?」
「そう……」
ウーン満州ねえ……。アタシャ軍国少年時代を思い出したよ。
♪ここわァお国ォ何百里ィ離れて遠ォき満州のォ〜♪
軍歌だぜ、相変わらず古い話だねえと笑わないでよ。だけどさ、今日ビの人に満州なんていったって分からんよね。話を進めるためにちょいと辞典から解説しておこう
『満州→中国の東北一帯の俗称』
ですとさ。そこでアタシャさらにお聞きしたんだ。
「満州電業会ってどういうことですか?」
「ウン、俺ね、戦時中、関東軍に入っていたんだよ。それが終戦になってそのまま満州に電気を送る電業会に移ったんだけど昔の仲間がこうやって今でも連絡を寄越すんだ」
ウーン、満州の次は関東軍か。ますます古くなってきたぞ。そこでまたまた字引だ。
『関東軍→満州に駐屯した日本陸軍部隊、日露戦争後、陸軍部が独立したもので日本の満州支配の中核的役割を担っていた』
とある。お分かりですかな?、よく分からない?。そうでしょうなあ、しかし何となく分かったような気持ちで聞いてよ。
関東軍に所属していたとなりゃあ、このご老体はかって颯爽たる軍隊の精鋭だったんだ。軍国少年が今度は尊敬だよ。
アタシャ思うんだ。この方はまさに矍鑠(かくしゃく)の言葉がぴったりする人だね。エツ、カクシャクってどういう意味だって?、じゃまた字引と参ろう。
『矍鑠→年老いても丈夫で元気なさま』
ねッこの方にぴったりの表現でしょッ。人間、矍鑠でありたいけどなかなかそうはいかねえんだよなあ。
矍鑠については以前「1010・82号のフロント日記」で「銭湯には不老長寿の人もいるんだ」と、全国を自転車行脚をした人が86才になっても近在を自転車で走り回っているご老体について「矍鑠そして不老長寿を地で行く人だ」ということを書かせてもらったが、この自転車行脚の方が昨年大病に侵され2ケ月程入院されたんだよね、それ以来、あれだけ元気だった人がすっかり弱られてしまったんだ。
最近は杖をついて風呂にやってくるようになってしまった。不老長寿の人も病には克てないんだなあと人生の悲哀を感じていたんだけど、その元不老長寿の方が今日の主役のご老体を表してこんなことを言われたんだよね。
「俺が元気だった頃、鮨屋ヘ連れてってもらったんだけど鮨屋の板前さんが、毎日のように来て銚子を3本ほど飲まれるっていうんだ。最近は俺の体が弱ってモタモタしていると桶から腰掛けまで揃えてくれるんだからねえ。俺より10も上なのにどっちが年上かわからんよ。あの人は怪物だねえ」
と驚嘆されていましたなあ。
尚、この怪物さん、前に書いた時にも紹介したと思うけど、文学座の名優で料理通としても知られていた故・金子信雄さんのお兄さんになるんだよね。金子信雄さんは東映の俳優でも活躍されていたけど、お兄さんのほうは満州から帰国してより役者ではなく東映京都撮影所にお勤めだったという。
その金子信雄さんは70代で亡くなったそうだがお兄さんは百才は軽いねえ。
アタシャ長年、湯屋稼業をやっているが、今まで百才の天寿を全うされた人にはお目にかかったことがない。世の中は現在未曾有の高齢化時代になっている。当湯のお客さんにも90過ぎた元気な方は何人もいますし、これから更に増えるんじゃないかなあ。
願わくばお兄さんには当・さくら湯で百才の先駆者となってほしいねえーー。






