銭湯の燃料はねえ
「お風呂屋さんの燃料は冬と夏じゃどっちが使うの?」と、フロントへ聞いてきたのは80近いダンナ。この方、その昔に知り合いが銭湯をやっていたといい、時折、アタシに銭湯の話を投げかけてくるんだ。
「夏と冬の燃料?、そりゃあもう冬のほうがはるかに多く必要なんですよ」
「そう、なんで冬は多いのかねえ。寒いから使うのかな?」
「まあ冬は水も冷たいし、寒さは全体的に風呂の沸き方も違うしねえ」
「そう。ところで昔はさあ、お風呂屋さんは大きな大八車みたいなもので燃料を運んだりしていたもんねえ」
話がちょいと変わってきましたな。
「ええ、昔は雑燃専用だったから大きな手車を引っ張って薪などの廃材集めが風呂屋の主な仕事だったんですよ。お客さんはノレンさえ出せばワンサカ入った時代だけど燃料難で、燃料を集めるのが最大の企業努力でしたねえ」
「あたしの知り合いのお風呂屋も朝から燃料取りに真っ黒になって働いていたっけなあ。ところでお宅は今はガスなんだって?。煙突がないもんねえ」
「ええ、オールガス化にしたんで煙突もいらないんですよ。アタシがガスにした当時は都内で1600軒の風呂屋があったんだけど、ガスの浴場は10軒もなかったんですよね。今は簡単に風呂釜に取りつけられるガスバーナーが開発されて全都で100軒以上はあるんじゃないですかねえ」
「でも未だに薪を燃してる所もあるようだね。煙突から黒い煙がモクモクでてるもんねえ」
「まあ、燃料コストの問題でしょうが、廃材が余っている時代もあって薪を使ってる浴場が全体の3割ぐらいあるかなあ。後はガスが一部でほとんどA重油が主燃料になってますねえ」。
次のお客さんが見えた。ダンナ「じゃまた…」とお帰りになったが−−。
夏と冬では燃料が違うか?−−。ダンナの質問にアタシャその昔の燃料事情を改めて思い出してみた。雑燃料が主役だった時代は50年代に重油が60年代にガスが登場するまで英英と続いたのである。前述したような燃料難にあえぐ?銭湯は雑燃集めにそれこそ東奔西走したのである。集めてきた薪材は電動ノコギリで風呂釜にあわせた寸法に切り揃えその日に必要な量以外は全部貯蔵したのである。
とにかく風呂屋の燃料消費量は夏と冬では格段に違ったのである。何しろ客数が多かった。冬場の寒さは夏場と同じ売上でも燃料は2倍近くも必要としたのである。しかし、寒さの薪屑などは一般でも使うため排出量が極端に少ないときている。入りが少なく出るほうが多かったのでは風呂釜は冷えてしまう。
そこで冬場に備えて風呂屋の若い集は大車輪でストックに励んだのである。
風呂屋の裏の空き地にそれこそ見上げるように薪の山を作るんだ。あまりに多く積み上げるため「そんなに高くしたら煙突が見えなくなっちゃうよ」と冷やかされたほどだったのである。
しかし、こんなにセッセとストックしても春先になるときれいになくなってしまう。そこでまたまたセッセセッセが始まるということになる。風呂屋の若い衆はまるでイソップ物語に出てくる「蟻」のようなもんだった。今考えるとほんとによく働いたなあとしみじみ思い出すねえ。
ところがこんなに働いた時代から重油、ガスが登場するや燃料の心配は皆無になり、特にガスの設備はスイッチ一つで湯が沸き風呂ができる。湯量から温度の調整まですべて機械がやってくれる。だから風呂屋のオヤジはちょっとした掃除以外、ほとんどやることがないからフロントでボケーッとしているのが仕事になっちまった。
しかしなあ、セッセセッセの時代は働いただけの効果があったものの、燃料難から解放され体がラクになったら今度は実入りが思うに任せない。フロントでゼニ勘定をしてタメイキをついている。ホントウマクいかねえよなあ−−。






