マメな人なんですなあ
何ともマメな人がいる。
マメ−−忠実(まめ)と書くらしいが、辞書には「まごころがあること。まじめ、誠実、本気。苦労をいとわず、よく勤め働くこと」と説明されているが、当湯(うち)のお客さんにもマメな方がいるんですなあ。そこで今日はマメなおばちゃんに登場願うことにしたんだ。
「もう70だもん」と言われる小柄な人で、隣接浴場の廃業からうちへ見えられるようになったんで、まだ2年足らずであるが、毎日見える常連さんになっている。つまり、いいお客さんなんである。
この方ね、汚れたり散らかったりしていることが気になってしょうがない、というんで、化粧台が濡れていると備え付けの雑巾でサッサと拭くし、桶や腰掛けが散らばっているのもまたサッサと集める。脱衣場の床が少々濡れていても置いてあるモップを持ち出してこれまたサッサである。
これだけではない。風呂場でちょいと顔見知りになるや、すぐにセッセセッセと背中を流すらしい。古い常連さんが「あたしが洗ってあげようとした人にもあの人が出しゃ張るんでやり難くなっちゃった」とボヤいていたほどなんですな。とにかく、小柄な体がよく動くんですよね。しかし、マメも過ぎれば出しゃ張りになるんだが、この人には通じない。サービス精神旺盛なんです。やってあげて悪いことはないでしょッてな精神のようですな。
このおばちゃんがうちへ見えられた当座に言われたんだ「化粧台はどうしても水を使うから濡れちゃうでしょ。だからあそこへ雑巾を置いておくといいんじゃない?」。ホウ、そりゃあいいアイデアだ、と雑巾を常備したんだ。以来おばちゃん、必ず化粧台をお化粧?してくれているようである。アタシャご厚志まことにカタジケナイと感謝している次第。
そしてねこのおばちゃん、誰彼なくサービス精神を発揮?するから時としてジュースなどをもらうことがある。そうすっとおばちゃん、返礼を心がけるんだが、それが少々苦になるような気配もあるんですな。「おばちゃんねえ、風呂の付き合いは程々でいいんじゃないの」とアタシャご忠告申し上げてもみたんだがねえ。
そんなおばちゃんの本領を発揮された事件が?昨日出来(しゅったい)したんだ。。「ダンナさん、お風呂場で転んだ人がいたようですよ」というご注進にアタシャ急いで脱衣場へ出向いたら、おばちゃんが同年輩の人を抱えるようにして浴室から出てきた。おばちゃん、アタシにさっそく事情報告である。
「洗ってイスから立とうとしたらドタンって転んじゃったの。そいであたしが今、ここへ連れてきたの」
「頭なんか打たなかった?」
「それはなかったようよ」
そして、そしてである。転んだおばちゃんが「大丈夫です……」というのにも「いいから、いいから」と、おばちゃんの、ウン、転んだ方のおばちゃん。
どうもヤヤコシイな。とにかくそのおばちゃんの衣服をセッセと着せてあげるんだ。転んだおばちゃんが恐縮していたなあ。
アタシャ、何はともあれ大事ないなとフロントへ引き上げたんだが、事態沈静でフロントへ出てきたおばちゃん。アタシの「お世話をかけましたね」に、「あたしはあんなのをみると放っておけないのよ。周りの人が手を出し過ぎるっていうんだけどさあ」。面倒見たのに……と少々不服そうな感じでお帰りになった。そして転んだおばちゃんである。フロントで「久しぶりに来たのに迷惑をかけました。あたし、足が悪いんで立とうとしたときに尻持ちをついちゃったんです。こんなに騒がれちゃうと今度は来にくくなっちゃうわあ」
さて、お二方が帰った後に出てきたのは20年来の常連さん。もう80近くなる。「あのばちゃんさあ、大したことがないのに騒ぎ過ぎよ。やたらにああだこうだってやるのは余計なおせっかいよね」
うーん、親切も過ぎれば出しゃ張りになり、お節介焼きになる−−。おばちゃんさあ、さっきも言ったけど、裸のお付き合いは「万事、程々」がいいんですな。マメに動いて親切に振る舞っても逆効果じゃツマンナイもんねえ。






