認知症ってねえ
以前にもちょっと書かせてもらったんだけど、墨田区の浴場組合では区・高齢者福祉課の主導により月に一回程度、各浴場で「湯処・語らい亭」というイベントをやってんですな。高齢者を対象にして金曜日の敬老入浴デーに開店前の一時を使い、内容は講師による健康の話しからボランティアの芸達者な人たちが民謡、相撲甚句、カッポレにマジックなどなどを行いお年寄りに楽しんでもらっているんです。それとこの企画には「閉じこもり老人」への対応という一面もあるんですな。
ということで本題に入ろう。今回、当湯(うち)で行う「語らい亭」の出し物は、保健センターから講師を招いて「認知症の予防について」というお話を聞くっていうことなんです。つまり「ボケないために、どうしたらいいか」というまことにタメになる講演会なんですね。
そこで、お客さんに周知徹底?し、多くの高齢者の方々にご参加願うべく、家の者がポスターを作成して脱衣場に張り出し、チラシなども書いてフロントで配布したんですよ。程々の反応がありましたなあ。「ボケないために・認知症予防について」となりゃあ多くのボケ症状予備軍?が(アタシもそのうちの一人ですがね)いろいろと聞いてきましたよ。で、それらを少々−−。
まずは毎日見えるご近所のおばちゃん、80余才である。
「ボケないためにって、いいお話のようね。あたしはこの頃、物忘れがひどくって困るのよォ」
「年取れば誰でも物忘れをしますよ。だから是非聞いてくださいな」
「そうね、よく聞いとかなきゃね」と言いながら脱衣場へお入りになったんだが、すぐまた出てきた。
「お風呂道具を忘れてきちゃった。ちょっと取ってくるわァ」
オヤオヤ……。おばちゃんさあ「語らい亭」の日取りは忘れないでよね。
「ニンチ…ショウってどういうことだい?」のご質問は70前後の職人さん。
「認知症ってね、ボケ、ボケのことよ」
「なんでえボケのことか。俺はまた女の人が子供ができないとか何とかっていうやつかと思ったよ」
「子供ができない??、あゝそれは不妊症のことでしょッ」
ヤだねえお客さん、風呂屋は婦人科の病院じゃないんでっせ。
「だけどさ、ボケならボケっていえばいいのに、ニンチ…ショウなんてコムズカシイことを言うから俺らには分からんよ」
なるほど、確かにそうですな。ボケという分かりやすい表現が、いつの間にか差別的用語になっちゃったようですなあ。
そういえば、アタシが浴場広報誌「1010」に「風呂屋のオヤジのフロント日記」を書き出した時、そう、もう10年以上前になるけど、アルツハイマーの言葉を書いたんですな。そん時、編集屋さんが「アルツハイマーは病名でもあり、差別用語になるからボケっていう言葉を使ったらどうか」と言われたことがありましたなあ。当時はボケが通常的に使用されていたのに、時が経ったらボケが認知症なんていう分かりにくい言葉になったんですねえ。同じような表現でも痴呆症のほうがまだ理解しやすいですがね。
さ、次に参ろう。話しかけてきた方は80代のご老体。
「ボケの予防っていうけど、もうボケてる人間はどうすりゃいいんだい?」
「おやじさんはまだボケていないでしょう。元気そのものじゃないですか。けどね、もしボケてる人がボケ予防の話を聞いたら逆にボケが直っちゃう……」
「ウッホッ、そりゃいいや。俺、語らい亭に申し込むよッ!」
さてさてそんなアンバイで申込者がかなりあったんだんですな。で、アタシャ区役所へ提出する参加者名簿をフロントでメモしておいたんだが、後刻、その用紙が見当らない。は〜てな?とフロントの引き出しをかき回していたら家の者が哀れむように言いやがんの。
「今度の認知症予防の話はしっかり聞かなきゃダメだね」だと−−。






