風呂屋のオヤジの番台ブログ

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2006年04月28日

しがない風呂屋のオヤジです

「ダンナさん『1010』まだあります?。ちょっと調子が悪くてここんとこお風呂に来られなかったんだけど……」

「え〜と、住まいに一部ぐらいならあると思うんで、取ってきましょう」

 60半ばのおばちゃん。独り住まいだそうである。ひっつめ髪のちょいとキレイなヒトでもある。断っとくが、独身で美人だからどうだっていうことではない。

「あたし、ダンナさんの文章好きなんですよ。シャレた文章でさあ。ダンナさんはガク(学)があるからねえ」

 ウッホッ、ガク(学)ときたぜ。アタシャ前にも書いたけど、文章をホメられると単純に単純にウレシクなっちゃうんである。それがお世辞であり、ヨイショでありオダテであり、社交辞令、外交辞令であると分かっていてもすぐウレシクなるんである。しかしなあ、ガクがあるとはちょいとホメ過ぎだ。

「ガク?。とんでもない、アタシャ15ン時に風呂屋の小僧に入り、今日まで風呂屋以外に知らねえ人間だからガクがあるわけないですよ」

「あらそうなの。じゃ何ていうのかしら……そう、カンセイ、感性があるのね」

 オッホッ、今度は感性とおいでなさったか。ウーン、ボキャブラリーの豊かなヒトだ。しかし悪い気はしないねえ。ウン、とってもキレイに見えてきたぞ。

 アタシね、今言ったように中学卒業と同時に伯父の湯屋に見習いとして入門したんだ。下足番から大八車を引いて真っ黒になっての燃料取り、さらには釜燃しなどなど。修行っていう言葉が生きていた時代だから15の坊主頭の小僧にはキツイ仕事だったなあ。しかしそれも慣れれば差ほどじゃなかったんだけどね。

 何しろ当時は第二次世界大戦でアメリカに無条件降伏しちまったあとのニッポン復興期だったから国民はもうやみくもに働いた時代でもあったんで、風呂屋だけが格別にキツかったわけでもなかったんだよな。

 今、湯屋モンになって半世紀が過ぎちゃったけど風呂屋も変わったよねえ。ガス化で浴場の代名詞だった煙突が少なくなり、番台もなくなった。何事も手作業だったのがすべてが自動化されてスイッチひとつで湯が沸くってんだから隔世さ。

 アタシね、今度6月後半に草隆社から「湯屋番五十年・銭湯その世界」っていう本を出してもらう予定なんだけど、その本の中にアタシの過ごした昭和20年代の銭湯模様を書いたので、若干でも興味のある方はぜひ読んでみてください。

 アレッ、美人で独身のご婦人との会話だったのに、いつの間にかアタシの本のPRになっちゃったな。つまんない話になってゴメンネ。

2006年04月27日

社会評論家もいるんです

銭湯にはおよそ似つかわしくない?硬質のご意見を吐かれるお方がいるんだ。数年前60才で定年退職され今は駐輪場の仕事をなさっているというおヒトである。

「原油が1バレル75ドル以上になって評論家は80ドルになるだろうと言ってるけど、俺は100ドル近くになるとにらんでんだ。イランの核問題など産油国の情勢が緊迫しているから、こりゃあもう第二のオイルショックになりかねないよ」

 とまあ、こういったアンバイの、当湯における社会評論家という感じですかな。しかしねえ、風呂屋の脱衣場ではこの手の堅〜い会話はどちらかといえばあまり受けませんな。みなさん、原油の高騰はイランの核問題が……なんて宣われてもホホウ…とわかったようなわからんような顔をしてるだけですもんね。

 話がちょっと脇道に逸れるちゃうけど、脱衣場の話題っていうのは女湯はテレビドラマの話なんかが多いし、男湯は一にパチンコ二に競馬、サンシがなくて五に野球ってとこですかなあ。最近は高齢化時代を反映して健康の話も大分多くなりましたな。さらに政治の話題も出ますが

「コイズミの後は誰が有力だろ?」

「アベシンゾーじゃないの」程度であり、

「後継総裁は憲法問題と靖国にアジア外交が課題になるな」

てなコムズカシイ議論には踏み込まない。何にしても「サワリ」だけを喋るだけであり「気楽」が脱衣場の特徴でしょうなあ。だからいいのかもね。

 さて、ここで冒頭の評論家?さんがおっしゃった原油の値上げについての話に戻ろう。これが今日の本題の予定なんだけどね。原油の値上がりは浴場にとって由々しき問題なんだ。営業の根幹を揺るがす非常事態といってもいいだろう。

 今回のバーレル75ドルという数字は従来の価格の2倍以上になるんであり、これが80ドルから評論家ウジの言う100ドルに近くなったら、風呂屋ではとても使えなくなっちゃう。しかし重油を燃さなきゃ風呂釜が冷えてしまう。湯屋じゃなくなってしまうよ。だからといって安易に値上げ分を入浴料に転嫁することは公衆浴場の場合単純には行かないんですよね。風呂屋の入浴料金は都道府県知事の許認可料金になっていて、東京都の場合は「公衆浴場問題協議会」という組織がありましてね、そこで毎年世情の物価の動静やら社会的事情などが討議されてれて決定されるんですな。「元値が上がったからホイ値上げだ」とはとても参らないんですよ

ね。さ〜てこれから先、原油価格はどう推移していくんだろ。心配だねえ。ここは一つ、うちの社会評論家のお知恵を拝聴しなくちゃいけねえな。センセイ「ウン、そうなりゃ昔にかえって大八車で薪でも集めてきな」なんて言わねえだろうな。

2006年04月26日

元気な秘訣は

 50前後の常連男性氏、自営業の方である。

「どうも付き合いが多くて飲み過ぎちゃうんだよな。なんとなく調子が悪いんで医者に診てもらったら、ちょっと肝臓が弱ってるなんて言われちゃったんだ。だからしょうがない、ここんところしばらく酒を抜いてんだ。しかしねえ飲まないっていうのはサビシイよねえ」

 とまずは体調報告である。そして続ける。

「この間タクシーに乗ったらかなりの年配の運転手さんだったんだ。80は越してるだろうなあ。そいでねちょっと聞いてみたのよ。運転手さんみたいにいつまでも現役でハンドルを握っていられるのは、何か秘訣があるんですか?ってね」

「ホウ、80過ぎて現役のタクシードライバーねえ、スゴイねえ」

「でしょ。そしたらこういうんだ。食事はいつも腹6分目にして、それ以上は絶対食べないんだってさ」

「ホホウ、6分ねえ……」

「そう、普通さ腹8分というじゃない。それが8分じゃなくて6分だっていうんだからねえ。でもこれね、理屈が合うんだよな。だってさ、腹にそんなに貯めなきゃあ内蔵の機能もそれだけ余分に使わないで済むってことなんじゃないの」

「ホホウ、そんなもんかねえ。そのヒト、おそらく酒もタバコもやんないんでしょうな」

「うん、そこまで聞かなかったけど多分そうだろうなあ」

「上は息するだけ 下はションベンするだけか。仙人みてえなヒトだな」

 ここでアタシャ一拍置き、せっかく丈夫で元気に働く秘訣を話してるっていうのに、ちょいと水を差すような一言を−−。

「こんなことも言うんだよね。落語の噺だけど『酒もタバコも女も知らず 百まで生きたバカがいる』ってね」

「ウッハッハッ!。そりゃおもしれえやあ」

 常連さん、大口を開けてさもおかしそうに、楽しそうにも笑った。そして「そりゃあいいや。じゃ今日は少し飲むか」と笑いながらフロントを後にされたんだが、お客さんさあ、アタシャ言わなかったけど、こんな話もあるんでっせ。

「酒にタバコにオンナが過ぎて 四十越したらもうヨイヨイ」。

 物事、万事ほどほどにしろっていうことなんでしょうなあ。けどオレ、ほどほどだったかなあ−−。

2006年04月25日

商店街もキビシイけど

 毎日のように見えるおばちゃん。アタシと同年輩ぐらいかな。とすりゃあ ン才になるということで程々のお年なんだがいたって若々しい。フロントで言う。

「買い物をしようと思ったんだけど、周りの商店街はスーパーがやっているだけでみ〜んな閉まってんのね。そういえば今日は祭日ですもんねえ」

「そうですなあ、最近の商店は日曜祭日は休んじゃうから、おそらくゴールデンウイークなんかず〜っと連休しちゃうんじゃないかなあ」

「昔の商店はめったに休まなかったもんだけど、今は会社と同じね」

「そうですなあ、商店が週休だ連休だ時間短縮だとなったのは、あれバブル時代からじゃなかったかな」。アタシャ悪いクセで、すぐ解説口調になっちゃうんだ。

「そうよね。あたしがまだ若い頃なんか……」

「いやいや今でも若いですよ」。おばちゃん、ちょっとウレシソ−な表情をした。

「とんでもない、もうおばあちゃんよ。とにかく昔はさあ、大晦日なんて夜中の12時過ぎてもみ〜んなお店は開いてたもんねえ。ところが今はもう5時6時になると閉まっちゃうんですもんねえ」

「商店が今のような経営形態になったのはバブル期での従業員雇用対策があったんでしょうな。時間が長くて休みが少ない個人商店には若い従業員が集まらなくなった。そこで週休に時間短縮が導入されたんだですな。そして小売店の特性でもあった御用聞きなんかも止めてしまい、配達すらも行わなくなった。つまり殿様商法で十分採算が取れたんですな」

「そうね、昔は御用聞きがあって家庭には『通い帳』が置いてあったわよね」

「しかしバブルが崩壊して景気も悪くなったら、今までの時間短縮が裏目に出てしまった。店を開けても客が来ない、来ないからまた早く閉めてしまう休んじゃう。悪循環ってやつですな。そしてそのうちスーパー、コンビニなどの大型店舗がどんどん出現した。こうなっちゃうと厳しいですよねえ。その上大型店は互いに凌ぎを削って年中無休の24時間営業が当り前のように猛烈な競争をしている。もう中小零細は飲み込まれてしまいますなあ。ほんと厳しいご時世ですよ」

「そうね、この商店街もK町Y町などに大きなお店が三つも四つもあるもんねえ」

 普段、冗談の多いおばちゃんとの会話が今日はめずらしく商店今昔という固〜い話しになっちゃった。でもおばちゃんさあ、風呂屋も小売り商店以上にキビシイんですよ。何とかしてくださいなッ。

2006年04月24日

川柳っていいねえ

 今朝の読売新聞(4/24)に「壊し屋が壁塗替える雑居ビル」という川柳が載っていた。時事川柳愛好者大会の最優秀作品だというけど、さすがうまいねえ。小沢・新生民主党を風刺してまさに傑作だ。そして夕刊の「よみうり寸評」にもこの句を取り上げ「衆院千葉7区の補選で自民党に競り勝った民主党に、偽メールで手痛く汚れた壁を小沢新体制でうまく塗り込めることに成功した…」とも書かれていたな。

 アタシね、川柳って大好きなんだ。しかし自分で作句するってことができないんですな。たまにやってみてもロクなものができない。で、いつも人様の詠んだ名句にクスッと笑いウマイねえと楽しんでいるんですわ。

 川柳というのは江戸の中期頃から始まったとされているんだよね。そして銭湯に関する川柳も随分とあるんだ。そこで以前アタシが全国浴場新聞に書かせてもらったクダラナイ川柳の話を今日、新聞で名句をみたついでにもう一回臆面もなくブログでオサライをしてみようと思ったんだ。ほんの一部だけどね。

 まずはその1。

 江戸銭湯の朝湯風景で、当時は毎朝5時・6時から開店したらしいが「締出しのように朝湯を待っている」「内の戸があかぬと湯屋の戸を叩き」夜明けを待たずに客が押し寄せたという、何とも繁盛したよき時代なんだなあ。

 次いでその2は江戸初期から幕末まであった男女混浴の「入り込み湯」である。

「念のため湯屋で仲人見合いさせ」。スッポンポンでのお見合いなら間違いない。

「入り込みは抜き身はまぐりごったなり」「入り込みはいいが倅が不心得」

 さてその他まだまだ仰山あるんだけど、ここで一気に平成へ飛んでいこう。こちらは「平成とっておき人生川柳・榎本勝起・選」と「サラリーマン川柳傑作選・山藤章ニ・尾藤三柳・選」から借用して、銭湯で使える句を二つ三つ。

 一年ほど前まではカップルで見えていた30代の女性。この頃は一人でお見えになる。風呂屋のオヤジはどうも気になる。別れたのかなあ。だとすりゃこの句だ。

「投げ捨てたい過去の男の顔とクセ・紺野伸江」。

 中年の女性。水商売の方なのか美人なんだが全体的になんとも派手である。

「ひとまわり若くとムリし厚化粧」

「厚化粧ハエはとまれど蚊は刺せず・斉藤圭子」

 大きなお世話だが、どうもフリンのニオイがする中年の男性と若い女性。

「馬鹿だなあ追ってどうする他人の夫」

「離れない!だって貴男の子ができた」

 もっともっと載せたいんだけど紙面がない。で最後は駄句を一つ。

「いらっしゃい!美人に声が高くなり・番台のオヤジ」

2006年04月23日

世間話が−−

 フロント前の椅子に座り、湯上がりのジュースを飲みながらテレビを見て談笑している二人のおばちゃん。お年はそうさなあご両人とも70は越してんだろうか。

 テレビは耐震偽造問題の姉歯元1級建築士ら8人の逮捕劇を報じている。

「この人達、逮捕されて当然よねえ。でもさア、アネハやキムラ建設のほかになんでヒュー…ヒュー……」。おばちゃん、ヒューヒューと風が吹いてんじゃないよ。

「ヒューザーでしょッ。ヒューザーの小嶋社長」

「そッそッ、そのオジマ社長はなんで捕まんないの?」

「そのうち逮捕されるでしょ。時間の問題よ」

「それにしてもさあ、こうやって見ると、え〜とヒューのオジマ社長やソーケンのえ〜とナントカっていう会長は見るからにシタタカで悪人に見えるけど、アネハやキムラの社長はなんとなく人がよさそうに見えない?。特にキムラ建設の社長はおじいちゃんでアワレッポク見えちゃうんだけど」

「そうね、キムラ建設は早々と破産しちゃったし、アネハ建築士も最初から偽造を認めていたし、奥さんが自殺しちゃったからちょっとは哀れみもあるかもね」

 フロントの目の前での会話はアタシの耳にも遠慮なく入ってくる。それにしても質問に答えるように喋っているおばちゃんのほうはなかなかの知識派?だよ。

「だけどさあ、この問題もそうだけど、この頃親が子供を殺したり、逆に子供が親を殺すようなイヤな事件ががやたらに起きて、それをテレビは細か〜いことまで報道するけど、昔は今みたいにテレビ時代じゃないし、ラジオではそんなに細かく報道しなかったんじゃないの。あんまりあれもこれもと報道するのは何か報道のし過ぎじゃないかっていう気もすんだけど……」

 ウーム、知識派おばちゃんはなかなか鋭いことをいう。と、おばちゃんアタシが聞いていることを意識したのか急にアタシへ話を振ってきた。

「ダンナさんもそう思わない?」。オッ、アタシャちょっとアワテタ。

「ほんと、アタシもそう思ってんですよ。とにかく民放は視聴率最優先だから視聴率の前には何でもありで、ニュースも読み物仕立てにして少しでも見る人の興味を引こうとやっきなんでしょう。視聴率なんてないといいんだけど、民放ではねえ」

 アタシャ一応アタシの持論?をおばちゃんに開陳したが。しかし何だな、これからはどこぞのダンナがパチンコに凝ってるとか、あそこのおかあちゃんはカラオケに一生懸命だなどのありきたりな世間話じゃ通らねえな。ウン、風呂屋の番台もちっとは勉強しなけりゃ知識派の多いおばちゃん達に置いていかれそうだぜ。

2006年04月22日

整形外科

 アタシね、S整形外科へ通ってんだ。何せ太股がシビレるようで、ヒザから下が冷えるんだよね。年のせいかなあとは思うんだけど、このまんまじゃ杖をついて歩くようになりそうだ。今から(といっても程々の年ではあるんだが)腰を曲げてさあ、杖を頼りにヨッタンヨッタンと町中を歩く姿は、想像するだけで気が滅入っちゃうよ。ま、いずれはそうなるんだろうが、そんな格好はもう少〜し先に願いたいもんだ。で、整形外科へトボトボっていう次第なんだ。

 アタシャ、昨年、体調をくずして以来、一気に身体中が調子悪くなっちゃった。それまでは丈夫にまかせて突っ走ってきたんだけど、年取るのってわびしいねえ。

 整形外科の治療って面白いよね。治療が面白いなんてまことに不謹慎だと思うけど、アタシの言うことはマジメな話じゃなくて、物事をシャレっぽくみてのことだからオユルシのほど。

 まずは足腰に電気の治療から始まるんだが、患部に電流を流すためコードのついたものを巻き付ける。これ、何やらひも付きの、つまり猿回しのエテ公(猿)みてえなスタイルだ。これでテンツク太鼓でも叩かれりゃあ踊り出すんじゃねえの。まさか−−。でも今日ビの若い人は「猿回し」なんか分かんないかな、

 次いで首を伸ばすためにアゴの下にバンドを巻き、上から引っ張る治療だ。この姿、端から見てると、世をはかなんでクビを……よせやい。

 ベッドに横たわり腰をグ〜ング〜ンと伸ばしてもらう治療もありますな。またまたナナメから見ちゃうけど、ベッドにくくりつけられて完全にマナ板の鯉って姿だな。さあどうにでも料理してくれってアンバイだ。

 しかしねえ、こんな姿があるからこそアタシを含めた高齢者が、往生することも忘れて長生きの恩恵を受けてんだ。有り難いことだと感謝しなくっちゃね。

 看護婦さんは親切だねえ。白衣の天使はてきぱきと患者さんの応対をしている。年寄りの話し相手になったり、気難しいご老体にも柔らかく接しているしアタシのくだらないおしゃべりにもイヤな顔一つせず、微笑みさえ浮かべて応対してくれらあ。有り難いねえ。

 エッ、何かご質問?。看護婦さんは美人がいるかって?、当り前ですがな、そんなこと聞くだけヤボってもん。み−んなキレイな人ばかりさ。アタシにとっちゃあ眩しい(まぶしい)ぐらいよ。

 エッまたまたご質問?。アンタは目が悪くないかだって?、オイオイ−−。

2006年04月21日

ブログ、見たわよ

「おじさんのブログ見たわよ。とっても面白かった」。

 フロントへ来るなりそうおっしゃったのは50前後の奥さん。近所の方である。

「そう、そりゃあそりゃあ。ありがとうございますッ」

 実はね、パソコンのパの字も知らないアタシが、草隆社からの話で「風呂屋のオヤジの番台ブログ」を書き出したはいいんだが、アタシのブログなんか見てくれる人があるんかいな。

 浴場情報誌「1010」なら雑誌だからほどほど読んでもくれるんだろうが……とちょいと心細くも感じていたんだ。そしてね、こりゃあ少し宣伝しなくっちゃいけねえのかな、と思い立ったんだ。

 そこでまずは組合のパソコンをあやつるような仲間に一報を入れ、次いでにお客さんにも、やりそうな方を物色していたんだ。今日の奥さんは数カ月前からフロントで「あたし今、パソコン教室に通っているの」という話を聞いていたので、そうだこの奥さんならアタシのブログでも見てもらえるんじゃないかとPRにこれ努めたっていう次第さ。

「とっても面白かったので、パソコンの中に『お気に入り』というとこがあるんだけど、また見ようと思って、そこへ入れたの。また読ませてね」

 どうぞどうぞ、ど〜んどん見てくださいな。ウレシイねえ。風呂屋のオヤジのブログを読んでクダサルなんてアタシャ、カンゲキだよ。

 よしッ。このカンゲキを再びだッ。さ〜て次は……。パソコンをやっていそうなお客さんは誰だろうか。アタシャ虎視眈々と、そうコシタンタンとだ、次の獲物?を探して、思いを巡らした。このヒトはやるんじゃねえかな、この方はやりそうな気がするけどなあ……。

 フロントでゼニをいただきながら、あれこれ標的を定めるんだがなかなか声を掛けるまでにはいかねえんだ。うっかり話しをして、フン!顔に似合わないものを書いたって読む価値なんてないよ、てな反応を示されたらどうしよう……。 アタシャ自信がないからやたらに迷っちゃう。

 それでも二人ほど何とか見つけたよ。ご年配だが「ウン、パソコンやってるよ」という返事をもらい勇躍ご説明に及んだんだ。

 そして数日−−。アタシのほうから「見てくれましたか」と聞くのも何となくおこがましいようなので、「見たよ」というイロよい返事を期待しながら待っていたんだが、お二人とも何もおっしゃらない。忘れたのか、無視されちゃったのか。たぶん後者だろうなあ。

 ア〜ア、やっぱり風呂屋のオヤジのブログじゃ当てにされないか−−。

2006年04月20日

物の見方がねえ

 当湯から1キロほどのK町に「都内最大級の広さ」を売り物にする大型商業施設『O』が今日オープンしたそうである。朝刊にどでかい広告が入っていたっけな。

 4時半、常連の70おばちゃんがやってきた。いつもより少々早いようだ。

「K町の『O』に行ってきたの。疲れちゃったから早くお風呂に入ろうと思って」

「すごい人出だったんでしょ」「そうね、若い人が多かったわ」

「広いんですってねえ」「そッ、だだっ広くて歩くだけでも疲れちゃうの。そいてね、出口がわかんなくなっちゃって、うちと逆の方向へ出ちゃったのよ。警備員さんがいたから、出口の案内図ぐらい出しておきなよって文句言ってきちゃった」

「値段は安いんでしょ?」。アタシャ気軽に聞いたんだが、おばちゃん価格のことになるや急に声のトーンが上がってきちゃった。

「それが高い高い。あたし洗剤は花王の☆☆しか使わないんだけど、それが高いの高いのって。近所のスーパーで買えば××円で買えるのに△△円で倍もすんのよ。ウーロン茶だって普通××円ぐらいでしょ?、それが△△円だもん。マグロの切り身が グラムで△△円。そこらの魚屋さんなら××円ぐらいでしょ?。そしてねナントカがいくらでカントカがいくらもするし……」

 おばちゃん、品物の価格をどんどん繰り出し、いかに『O』の値段が高いかをリキ説するんである。アタシャ申し訳ないがこの手の買い物はほとんどしたことがないから物の値段はよう分からないんだ。で、おばちゃんの経済論?をただただ拝聴しているだけである。それにしてもおばちゃんの値段に対する執念?はスゲエや。

 さてそれから数刻後、やはり常連さんで同年輩のおばちゃんの登場である。

「『O』へ行ってきたので遅くなっちゃった。人が道路まで溢れてんの」

「広いんですってねえ」

「そうね広いわね。しかし広々としていているから気持ちがいいわよね」

「値段が案外高いんですって?」

「そうね。しかしああいう所はあまり安物は受けないんじゃないの。それと物によっては結構割引もしてるわよ。品物が豊富だから見るだけでも楽しいわ」

 う〜んなるほどなあ、人によっては物の見方、価値観がこうも違うのか。そこでアタシャ考えちゃったよ。

「オレの印象もお客さんによっては、気安く感じてくれる方もいるだろうが、反面、何となく気難しそうで、取っつき難い風呂屋のオヤジだ、と思われてんじゃないのかなあ。心しなくちゃいけねえな−−。

2006年04月19日

新庄、引退宣言

夕方のスポーツニュース。日本ハムの新庄が今シーズン限りでの引退宣言とやらをやっている。スポーツ紙も大々的に報じていた。まるでスーパースター並みだ。

 湯上がりでテレビを見ながら一服していた中年の男性が苦々しげに言った。

「なんでペナントレースが始まったばかりで引退なんか宣言するんだ。カッコつけやがったな。ま、これが新庄らしいのか。俺には理解できないけどね」

 昨日のオリックス戦で満塁弾を含めて2本のホームランを放ち、ヒーローインタビューでお立ち台に上がっての引退報告である。今日でユニフォームを脱ぐっていうなら分かるけど、過去にこんな形で引退を報告した選手なんかいたんだろうか。

「捕れると思った打球がワンバウンドしたり、刺せると思ったスローイングがアウトにできなかったりで、もういっぱい、いっぱい」としゃべっていた。

 選手仲間や監督から惜しまれる声が上がっている中で、楽天・野村カントクの話が面白い。「攻守走どれをとっても素晴らしく、力はメジャー級だが、考える能力が足りないのかなあ……」。そう、考える能力がねえ−−。

 先刻のお客さんがテレビの野村談話にウンウンとうなずいていた。そしてアタシに言う。

「ほんとだよね。新庄に考える能力があったら間違いなく一段上の成績を上げ、一流選手になっていただろうな」

「ま、そうでしょうな。しかし考える力があったら今みたいな派手なパフォーマンスはやらんだろうし、地味な一流選手になっていたんじゃないかなあ」

「ウン、まあそうかもね。しかし新庄のパフォーマンスは芸能人のノリだもん。何せ今はスポーツ選手でもテレビタレントみたいなのが人気者になるんだからなあ。それにしてもこの時期に引退宣言とは非常識だと思うがねえ」

「ほんと、でもこれでまた新庄人気が上がるんでしょうな」

「新庄は引退したらタレントになるんだと思うけど、タレントになってテレビでチャラチャラしてね、結構人気を呼ぶんじゃないの。いつまで続くかは別にしてさ」

 フロントで新庄談義になったが、お客さんはなかなか厳しい。銭湯ファンには野球・政治・芸能と幅広い評論家?が多いんである。辛口の意見を述べる人からべタ誉めをする人など様々だが、アタシャそのつど「ホウホウ、ウンウン、そうですなあ、しかしですよ……」と合いの手を入れるんである。ゆえにフロントは退屈しないで済むってわけさ。そして今日は新庄批判の辛口評論家?の登場だったな。

2006年04月17日

メガネ

 ロビーの時計が6時半を指していた。そこへ40前後の見慣れない男性が入ってきた。一見(いちげん)さんのようである。フロント前にくるやまず聞いてきた。

「あの〜申し訳ないんですが、うちの子がメガネを掛けている人を見ると泣き出すんです。今、来ますが、そんなわけでメガネを外してもらえないでしょうか?」。

 オッホッ、湯屋稼業50年余、様々なお客さんと接してきたつもりだけど、こんな突飛とも思えるご注文は初めてだよ。

「いやあ、そりゃ構いませんが、子供さんって幾つなの?」

「9ケ月の女の子なんですけど、どこへ行ってもメガネの人を見ると泣き出すんです。女房にメガネを掛けさせて試してみたんだけど、やっぱり泣くんです」。

 アタシャ昨年、白内障の手術をしたんで、現在はメガネがなくても不自由はしないのである。しかしン十年もメガネを掛けてさくら湯のオヤジ稼業をやってきたもんだから、ある日突然メガネを外してしまったらお客さんが戸惑うんじゃねえか。

「お宅はどなたですか?」なんて言われちゃうんじゃねえかと思って、あえて素通しに近いメガネを掛けていたんだ。いうなればメガネはアタシのトレードマークってわけさ。だからといってメガネを外すことなんかちっとも厭わないんだが、このご注文、一般的にはどうなんだろ。

 お父さんねえ、子供が可愛いのはわかるけど、もし相手が強度の近視でメガネを離せない人や、あるいは素顔を見せたくない女性だったら困るんじゃねえかなあ。

 子供のためにだけで相手の事情を考えないことは世間に通らないと思うがねえ。

さて、奥さんに抱かれて9ケ月の赤ん坊が入ってきた。アタシはもちろんメガネを掛けていない。ところがだよ、赤ん坊は自動ドアーをくぐるやいきなり泣き出したんだ。アタシの悪役的な地顔を見たわけでもない。赤ん坊がキョロキョロ周囲を見回すはずもない。オイオイ、メガネの人間なんかここにはいないよ。父親はアレッといった感じである。しょうがないなあとつぶやくように、そして間が悪そうに脱衣場へ向かわれたんだが、さらに赤ん坊は浴室でもギャアギャア泣いていた。入浴中のお客さんにだってメガネの人はいないようだよ。

 お父さんねえ。赤ん坊の人見知りなんて時が経てばすぐ直りますがな。そんなことより、父ちゃん母ちゃんが子供に向合い姿勢が肝要なんじゃねえのかなあ。

 一介の風呂屋のオヤジがエラソーなこたあ言いたかないがね−−。

2006年04月16日

明治人気質

「ここんところ3日ばかり田舎へ行ってたんで、お風呂を御無沙汰してしまったけど、よろしくね」

 毎日、自転車で開店早々お見えになるご老体。ちょっと見えないとかならず来なかった理由を申される。まことに律義な方で当方がむしろ恐縮してしまう。

 そしてまたこの方、墨田の浴場で毎週金曜日に実施されている敬老入浴デーに対して「どうもタダで入るのは気が引けるなあ」と、ときどき入浴を遠慮されるんである。アタシャ、そんなことはありませんから、いつものように入って下さいよ」と申しあげるんだが、それでも「ゼニを払わないと何だか悪いなあ」といつも遠慮気味に入られる。無料入浴デーの金曜日は普段見えない人が大挙して押しかけるという日なのに、明治人気質とでもいうのか、昔気質の現代では希有な人でもある。ある意味では明治の粋をお持ちな方といってもいいかな。

 この方、Kさんというが、大しておしゃべりをするわけでもない。むしろ寡黙なほうでゆったりと銭湯を楽しんでいかれるのである。

 Kさんとよく同じ時間帯で入浴されている方がこんなことを言っていた。

「この間、一緒に飲もうよって駅ビルの鮨屋へ連れていかれたんだけどさ、Kさん酒が強いんだよねえ。鮨屋の板前さんが『ほとんど毎日のように昼間に見えられて日本酒を数本飲んでいかれます』と話していたけど、あの人、幾つだと思う?」

「幾つって?、ダンナよりすこし上の八十半ば過ぎってとこでしょ?」

「インヤとんでもない。俺より10(とう)も上で九十五才なんだってさ。95よ。ありゃあ怪物だね」

 ホウ、スゴイッ。当湯では最高齢じゃないかな。それにしても95にして毎んち鮨屋で酒を飲み、自転車で悠然と銭湯へ通ってくる。ほんとスゴイ!の一言だ。

 矍鑠(かくしゃく)っていう言葉がありますな。コムズカシイ字で今日ビではほとんど つかわれていないような言葉だけど、アタシはこの「カクシャク」って好きなんですわ。広辞苑によれば「年老いても丈夫で元気なさま」と簡単に解説しているが、アタシャ「老いを知らない元気な高齢者」と解釈してるんだ。そしてこのご老体はまさに矍鑠(かくしゃく)そのものだと思うなあ。

 ちなみにこの怪物さんは文学座の名優で食通でもあった金子信雄さんのお兄さんだそうである。

2006年04月14日

巨人

 7時半、中年の男性氏が入ってきた。時折のお客さんである。フロント前のテレビにちょっと目をやり「勝ってる?」と聞いてきた。巨人−横浜戦である。

 このご質問、考えるとおかしいんだよね。だってさ試合は2チームで戦っているんだから、本来なら「どっちが勝ってる?」と聞くべきなんだ。5回、5−2で巨人リードの場面である。アタシャちょいと皮肉っぽく言った「負けてるよ……」。

 お客さん「エッ負けてんのッ」「そう5−2で横浜が負けてる……」「なあんだ」お客さんホッとしたような表情を見せた。勿論巨人ファンである。とにかく巨人ファンは多い、圧倒的に多い。そして巨党は一様にアタシも巨人ファンだと決め込んで話しかけてくるのである。しかしねえアタシャ大きな声でいえないから小声で言うけど「アンチ巨人なんです」 だからといって巨人批判を展開するわけにもいかないんですな。何しろ風呂屋でもG党はウンカの如き大群?である。それを向こうに回してはフロントもやり辛くなる。

 で、しょうがない、巨人ファンであるような、ないような曖昧模糊(あいまいもこ)たる態度でお客さんに接しているんである。

 それにしても今年のジャイアンツのスタ−トダッシュは敵ながら見事だったよ。昨年、意気消沈としていたG党が完全に息を吹き返しちゃったもん。

 男湯の脱衣場でテレビを見ながら巨党が話をしている。

「今日もいただきだな。今年はこのままいっちゃうだろう」は気が早い。

 9時半、極め付きのGキチ?さんがやってきた。70で独り住まいのご婦人であり、テレビが終わるとラジオで結果を確認してからお出でになるんだが、今日はちょっと早かった。「9回で同点に追いつかれたんだけど、これから用があるんでお風呂へきちゃった。一つぐらい落としてもいいんじゃないかな」

 余裕のコメントである。フロントでアタシとよく巨人談義をするんだが、アタシャ適当に巨人を上げたり下げたりするからいい話し相手だと思っているようだ。

「今年のジャイアンツは強いねえ。昨年と違うなあ」

「そう、原が若手を思い切って使ってるのがいいのよ。あたしは去年も矢野などの若い選手を使え使えと言ってたんだけど、堀内はベテランに頼って全然使わないんだもんねえ。あれじゃ勝てなかったわけよ。今年の原はやるわよ」

「そうね、それと清原、ローズを切ったのが大正解だったですな」

 フロントは相手によってチェンジオブペースでいくんである。疲れっけどね。

2006年04月13日

下町のおばちゃん的

 最近、風呂で知り合い仲がよくなったおばちゃんが今日も一緒に出てきた。お年はお二人とも70前後であろうか。揃って明るい方である。

「あ〜さっぱりした。喉が渇いたわ」。一人がフロント前の冷蔵庫からポカリスエットを2本取り出した。1本づつ飲むわけである。当り前だ、二人一緒なのに一人で2本飲むはずがない。

「ダンナさんも飲む?」「いえいえ、アタシは……」

「そうよねえ、ダンナさんはお酒のクチだもんねえ。それでお酒は何を飲むの?、ウイスキー?日本酒?」

「いえ、若いときは流行りもあってウイスキー専門だったけど、その後ほとんど日本酒でしたなあ。しかし最近は年のせいか日本酒はどうもあとに残るようになったんでちょっと前から焼酎ですね。ショウチューのお湯割りです」

「そう、それはいいわあ。日本酒はダメよ。ウチのおやじなんかも糖尿病の気がでたんで焼酎に変わったわ。焼酎は飲んだ後がさっぱりしてるからいいのよね。それで焼酎は梅かレモンを入れるの?」

「いえ、お湯だけで日本酒のアツ燗の感覚で……」

「そう、それはいいわね」

 何やらお酒にかなり通じているような語り口である。さらに酒談義は続くんだ。

「焼酎はイモに麦などいろいろあるけど、麦が一番いいみたいね。今度ダンナさんに麦ショーチューを持ってくるわ」

「いえいえ、そんなこと……」

 雰囲気が下町のおばちゃん的?だ。おしゃべり好きで気取らない。外見にもあまりこだわらない。ちょいと知ったかぶり、ちょいとお節介もやく。その上ちょいと気前よく?もみせたがる。そしてアタシに淀みなくお酒の講義?である。

「今、お酒は焼酎が一番ね。ウイスキーはダメよ。あれは45度もあるから。日本酒も体にあまりよくないし。ショーチューは25度ぐらいですもんね」

 とうとうとお酒のウンチクを並べられていく。アタシャ、ホホウ、ホホウと聞いていた。そして長広舌が一区切りしたところでご質問だ。

「ところで奥さんは何を飲むの?。そうとう強いんでしょうねえ」

「あたし?、あたしお酒はぜ〜んぜんダメなの。ビールをコップに半分も飲めないの……」。ウッヘ、それでまあ−−。

2006年04月12日

昨日 雨降り 今日は風吹きあした晴れるか

 また雨だよ。桜が終わろうとしているのに何やらウスラ寒い日が続いたり、冷たい風が吹いたりのあげくに毎ん日雨だ。今日はかなり降るらしいなあ。おかげでここんところ風呂屋は閑古鳥が鳴いてるよ。いや閑古鳥のやつめッ鳴くどころじゃない、大声でわが世の春を謳歌してやがらあ。当湯の周りの商店街も人影はまばらだし、ホント客商売泣かせの陽気が続いてるわい。

 フロントでポツンポッツンと雨だれのように見えるお客さんを待っている時は、あくびが出るし眠気を催すしでロクなこたあない。無聊を持て余していると、何となく昔の活気があった銭湯を想いだしてしまうねえ。ジジイになったから特にその感じが強いな。昔はよかったなあ−−である。

 そこでその昔だが。風呂屋の全盛期は昭和40年代の前半までかな。とにかく混んだねえ。何しろ自家風呂なんて一般家庭にとって無縁だったから銭湯が生活の一部にもなっていたんだよね。仕事を済ませ家族が銭湯に入ることで一ん日が終わったんだ。風呂は銭湯へ行くもの、という感覚であり生活だったんだよなあ。

 そんな時代だからちっとやそっとの雨なんかヘでもなかった。土砂降りの最中こそ客足が鈍るものの、小止みを待って押しかけてきたもんだ。そして暑さ寒さにも強かったんだよねえ。暑い夏の混雑は当然であり、寒中の凍えるような時期でも混だんだ。何しろ銭湯で温まんなきゃ寝られないというご時世だったからね。冷暖房が完備され、家庭から寒暖の変化がなくなってしまった裕福な今日からみたらまさに隔世の感ですなあ。

 しかし、そんな銭湯隆盛の時代も昭和40年の半ばまでだったな。ニッポンが高度成長の坂道をグイグイ駆け上がっていく時を境にして自家風呂普及率の急増、一億総中流になってしまい、銭湯に翳りが出てきちゃった。銭湯の価値観の再構築を迫られたってわけだ。つまり従来の自家風呂代行業を卒業することなんだよな。

 現在の銭湯は健康・美容・やすらぎなどの機能が導入されている。アタシャ折りに触れて「今、銭湯にぜいたくがある」と言っている。おかげさまで内風呂育ちで銭湯を知らずに育った若い世代がかなり銭湯のよさを認識してくれるようにもなっている。うれしいねえ。

 それにしてもいつまで不順な陽気が続くんだろ。

「昨日 雨降り 今日は風吹きあした晴れるか」といったのは宮沢賢治だったかな。あした晴れるか−−。

2006年04月09日

桜花賞

 桜花賞である。男湯の脱衣場の話題は競馬、パチンコが主流であるからアタシャ競馬の開催日はかならずテレビを競馬中継に合わせておくんだ。

 開店早々に入ってきた中年の男性氏。競馬マニアである。フロントのテレビを見やりながら「まだ早いな、先に風呂へ入ってこよう」と浴室へ向かった。

 さてファンファーレである。脱衣場をのぞくと3、4人の客が見ているものの、くだんの中年ウジの姿はない。あれッまだ風呂ん中か、のんびり入ってやんな。走っちゃうぞッ。アタシャお節介にも浴室へ入って「発走するよッ!」と声を掛けてやった。考えるとこれ、お節介じゃなくて親切だよね。中年ウジ、体を拭くのもそこそこにアタフタと上ってきた。さあスタート……気合が入るようだ。

 レースは本命・武豊の馬が2着と破れ、ちょいと波乱が起きた。話題の3連単は14−8−12と入り27,460円の配当である。

 アタシャ以前から大相撲とか、競馬のG1レースはその結果をフロント前に掛けてある掲示板に書いておくんだ。話題性の提供ってやつですな。特に競馬はマニアが多いから掲示板を眺めて程々の反省会?という光景もみられるんだよね。

 中年ウジがフロントへ出てきた。「どうだった?」「ウン、だ〜めッ!」。またやられたよといった雰囲気だ。そして掲示板に目をやった。

「14番8番12番……。おれ、武の8番から入って14も買っていたんだが12番がなあ予想では一応、買おうとは思っていたんだけど……」

 けど……か。馬券ファン?にはこの手のセリフがやたらと多いんだよなあ。気にしていたんだけど……買おうと思っていたんだけど……などなどなんだが、物事に「タラ、レバ」は禁句とされているけど、この「……けど」もギャンブルには言ってもしょうがないセリフだと思うよ。ゴールしてからなら誰だって的中できますわなあ。で、アタシャ中年ウジにちょいと言ってみた。

「じゃ、これから馬券を買いにいったら?」。中年ウジ、ニヤッとしてご返答だ。

「そうすっか。そうすりゃ外れることもないしなあ」

でもね、今、売り切れましたって言われるよ、きっと−−。

中年氏、もう一回ニヤッとしながら言った「さ〜てっと、オケラ街道を帰るとしようか。いっぱい飲んだほうが安上がりだったな」

2006年04月07日

テレビ

「おれはね、小沢一郎が勝つと思うよ」といわれたのは、70過ぎの常連ダンナ。民主党の代表選挙の話である。ここんところさしたるニュースがなかったせいか、テレビは連日小沢一郎VS菅直人をトップニュースで報じている。過去、野党の党首選でこんなに騒がれたことがあったか。そしてテレビはもちろん、新聞の論調も断然小沢郵政だと言う。菅は精々善戦程度であろう、だった。結果は大方の、というより誰もが予想したとおり小沢一郎の圧勝で決まった。

 さて、先刻のダンナである。「小沢が勝つ」とおっしゃったのは昨日のこと。今日も定刻にお見えになった。フロントで開口一番「ねッ、おれの言った通り小沢一郎が勝っただろう」

 ダンナ、ちょっと得意そうだ。小鼻がピクッと動いたようである。アタシャ一応「そうですね」と言ってはみたが、ダンナねえ今日の代表戦で「菅、勝利」なんていう人がいましたっけ。みんながみ〜んな、そう、ニュースキャスターを始め、天下の大評論家を任じているエライ人からいっぱし評論家を気取っているワイドショーのコメンテーターとやらのお人まで「小沢の勝ちは動かない」でしたよね。

 そんなときダンナがさあ、「おれは菅直人が逆転で勝つよ」と断言でもなさり、もしホントにそうなったとしたら、こりゃあアタシも文句なく脱帽しちゃいますがね。申し訳ないけどダンナの予想はさあ、予想なんていうもんじゃなくて、単なるテレビの受け売りってやつですなあ。も一つ言えば競馬のレースでゴールインしてから着順を当てるようなもんですよ。辛口を言っちゃってゴメンネ。

「大体ね、今の民主党は前の代表だった、エ〜ト何て言ったっけ……」

「前原誠司ですか」

「そッ、そのマエハラが若くてダメだったから古い小沢や菅が出てきたんだ……」

 ダンナの政治評論は夕方のテレビと同じことを何度も繰り返される。

 それにしても、と思うよ。今日ビのテレビってやつは風呂屋の常連ダンナも政治評論家にしちまうし、その影響力はスゴイね。いうなれば世論を形成するような威力がありますなあ。テレビが右だっていえばみ〜んな右向いちゃうご時世になってるもんねえ。昨年の衆議院選挙の小泉劇場での自民圧勝なんかその最たるもんだ。

 大人から子どもまで洗脳しちゃう? テレビって、考えればなんとも恐い存在になったもんだ。

2006年04月05日

言葉

 自転車で使いに出た。当地で50年も風呂屋稼業をやっていて未だに毎日店へ出ているから、たった1キロ先のK町へ行くだけでも何人かのお客さんとすれ違う。

「コンチワ〜」「いい陽気ですねえ」。簡単な挨拶だが忙しい。ネクタイ姿の若い男性が「コンチワー」と明るく声を掛けてきた。掛けられた当方、ハテ誰だっけ?……とちょいと考えた。一応挨拶は返したものの、通り過ぎてから思い出した。

 風呂へ見えるときはジーパンにセーター姿が、表では会社帰りなのかバリッとしたスーツにネクタイである。見間違うのも無理はあるまい。それに対して、こちとら年中一張羅であるから相手は間違うはずがないのである。

 とまあそんなことで、歩道をいつものようにヨタヨタとペダルを踏んでいたら、前に中年の男性が闊歩していた。なんとなく通りにくい。で、チリリンと鳴らした。中年氏、別に振り向きもせず少〜し横へ動いてくれた。アタシャ「ゴメンナサイ」と声を掛けて追い越させてもらった。

 そしてお次である。前方から自転車の前に幼児を乗せた若い奥さんがグイグイと走ってきた。アタシのように一人でもヘロヘロ乗っている者からみたら何とも逞しい。狭い歩道をなんら苦にせず真ん中を走ってきた。「おっ、ぶつかりそうだな」。アタシャちょいと左側へ寄ってちょいと一時停止。奥
さんの自転車の通過をちょいと待ったのである。

 若い奥さん、泊まっているアタシャにゃ一瞥もくれず、スピードも落とさずにスイスイと通り過ぎた。アタシが避けるのは当然とばかりスイマセンのスの字もない。

 しかしなあ、アタシャ、よけてもらったり、追い越したりした時は必ず声を掛ける。掛けようと思わなくても自然とそうなる。だけど今の若い人たちは譲り合うとか会釈は面倒臭いのかなあ。若い世代のルールにはないのかなあ。そんなことを思うアタシがもう古いのかなあ……。

 それにしてもなあ……ジジイくさい気持ちで走っていたら今度は高校生らしき女の子とすれ違った。アタシが少し左へ寄ったら「スイマセ〜ン」と大きな声を出した。アタシャ「ウン、若い人も捨てたもんじゃねえな」と途端にうれしくなっちゃった。

何やら。すごく得をしたような気分にさせられた。いいねえ、こうじゃなくっちゃ……。

 お互い、簡単な言葉くらい出したいもんだよなあ――。

2006年04月03日

病院にて

 ちょっと体調を崩して病院へ行く羽目になっちゃった。まあ大したことはないんだが、寄る年波っていうやつでしょうなあ。

 うちの近くにあるS病院へ行ったんだが、アタシャ今まで丈夫にまかせて突っ走ってきたから病院のお世話になったことがなかった。だから病院をほとんど知らなかったといってもいい。ところが行ってみてタマゲタねえ。

 とにかく診察を受ける人であふれかえっている。それも高齢者が圧倒的に多い。世は高齢化時代、長生きをすりゃあ大方の人がどっか悪くなりますもんねえ。

病院の待合室は座るところがないほどである。誰かが言ってたな、

「2時間待ちは普通だよ。おれなんかこの間、半日待たされたもん」

 そうかあ、しかしなあ2時間じ〜っと待ち続けるっていうのは、かなりの精神力が要求されるなあ。いや体力勝負かな。ウン、ちょっとした格闘技かもな。

 だけど待合室で順番を待つ人々はホントに静かですなあ。時折小声で雑談をしている方を見受けるが、ほとんどの人は静かに静かにお待ちになっている。沈思黙考して? ひたすらお呼びを待つんである。アタシも静かに控えていた、しかしねえ、何もやることがないと半眼を閉じてクダラナイことを考えちゃうんだよな、

 看護婦さんや事務員さんの対応はていねいだねえ。患者を「様付け」で呼ぶんですもんなあ。「ホシノツヨシ様」なんてアタシにゃていねい過ぎるように思うねえ。そして看護婦さんの呼び方に特徴があるんだよね。これがまたなんともユーモラスである。

「○○サマァ」と語尾が上がる人、「××サマッ」と区切るように言う人、さらに「△△サマ〜」と伸ばして語尾が下がる人などなど、聞いていて面白い。それと、もひとつ思ったよ。世間には同姓同名という人が案外多いんですなあ。「ヤマザキトヨコさまァ」「ヤマモトヨウコさま〜ァ」。オンヤ? あの「大地の子」などの大作家・山崎豊子さんや高名な女優の山本陽子さんが下町の中堅的な病院へわざわざやってきたのかな……。ま、そんなどうでもいいことを思っていたら待望の名前を呼ばれた。ハイッ、アタシャ喜んで看護婦さんの所へ行ったよ。

「ホシノ・ツヨシです」

「あらお呼びした方はホシ・キヨシさまですけど……」

ウッヘッ、アタシじゃなかったか……。世間にはなんとまあマギラワシイ名前のお人がいるんだろッ。それにしてもアタシャそそっかしいねえ。

 オイオイ、オヤジさんよォ、病院でそんなのん気なことをやっていてオヤジさんはどこが調子悪いんだい? ウン、脳神経内科なんだ。血圧とボケの病気――。

2006年04月02日

食音痴?

 フロントで料理屋のパンフレットを眺めていた。浅革の老舗・Tのものである。そこへ中年の奥さんがお見えになった。カウンターの上に置いたそのパンフレツトに目をやり「あ〜ら、おいしそうねえ。どこのお店なの?」と聞いてきた。

「浅草のTっていう店で、浅草では結溝知られているんですね」

「そうなのフグにスッポン……。おいしそうねえ……」

「おいしそう」を繰り返された。そう、パンフはTの店構えからふくコ−ス・スッポン料理などなどが写真入りで紹介されているから、見るからにうまそうである。

「あたしも行ってみたくなっちゃうわね。それにしてもおいしそうねえ」

「おいしそう」を都合3回言われて脱衣場へお入りになった。

 実はアタシね、古い浴場仲間と「タマににうまいもんを食おうよ」と食べ歩きの会をやってるもんで、今日はその下調べをやっていたんです。会のスタートは平成5年だからもう13年になりますかな。年に6回、偶数月に浅草界隈でちょいとぜいたくに箸を取って、組合の情報交換をしようという談論風発の一時ということなんです。会員は20人余。景気が悪くてゼニもないくせによう食ってるよ、と言われそうですが、そもそもの会の趣旨が今は亡き先輩に「ほどほどの年になったし、そうアクセクしないで旨いもんを食う集まりにしようじゃないか」と言われたもんで、金に糸目はつけず……いやいや、大いにつけますけど、まあ星呂屋のオヤジにしては贅沢な会になってんです。

 そして、もう70回も食い歩いている勘定になるんですな。活魚からウナギにドジョウにテンプラに、チャンコに寄せ鍋エトセトラと和食が主です。エッ、ボリュームのあるステーキなんか食わないのか? ですって。
ハイ、なにせ大分齢を重ねてきましたので、分厚い肉にはどうも歯が立たない? んですなあ。

 ハア? しかしそれだけいろんな物を食ってたら、さぞかし食通になってるだろう? ですって。ところがねえ、当会のお歴々は酒が入っちゃうと味なんか二の次になっちやうんですなあ。だからどこまでツウになっているもんやら、世話人としては心細い限りですよ。エッ? じゃ世話人はかなりのツウなのかですって? それがねえ、アタシャ根っからの食音痴(こんな言葉、あるんですかな)なもんで味にはほとんど頓着がないんです。「結構食ってるわりには知らないね」などと家人に笑われてもいますが、とにかく刺身や寿司をソースで食ってもどうってこたあない手合いなんですからねえ。オハズカシイ話だけど−−。

2006年04月01日

花見日和は

 桜花爛漫である。ここんところ、桜が咲いたはいいけど小雨混じりのはっきりしない日が続いていた。おまけに寒かった。先日、常連のご老体が言ってたな。

「いやあ寒いねえ。花冷えなんていう言葉があるけど、そんな風情じゃないよ。こりゃあ木枯らしじゃないの。とにかく今年は異常陽気だな。こんな寒さじゃ花見になんか行ったらカゼ引いちゃうよ。ま、うちで飲んでるのが無難だな」

 ところが今日は一転、風もなく穏やかな花見日和となったんである。さあこうなると堰をきったように花見へと繰り出す。明日の日曜日が雨の予報であるから尚更であろう。下町の桜の名所であS公園やK公園は押すな押すなの人だったという。

 開店間もなく、いつもの中年男性氏がやってきた。

「おや、今日は早いですな」

「うん、K公園に行ったんだけど、いやあものすごい人なんでたまげちゃったよ。世聞にはヒマなヒトが多いんだねえ。そういうおれもヒマ人のうちだけどさ。あんまり混んでいたから、これじゃあ風呂へでも行ったほうがいいやとさっさと帰ってきちゃったんだ」

「そう、でも花は満開なんでしょ?」

「花? 工〜ト、結構咲いていたようだったけど……」

 モシモシ、お客さんさあ、花見にいってきたんじゃないですか?

 続いては七十代の男性。小柄なカでこれまた常連さんである。

「花見ですか?」

「うん、K公園に墨田の老人会で400人以上も集まったんだ。阿波踊りがあってさあ、あたし踊るのが好きだから一緒になって踊ってきちゃったよ」

 フロント前で手振りをしながら寝る格好をなさった。踊らにゃソンソンですな。

 そして夕方、四十前後の男性だが、入ったと思ったらそそくさと上がってきた。

「忙しそうだね」

「ええ、これから会杜の連中と花見なんです」

 ホウ、夜桜か−−。それにしても花七日、束の間の狂騒曲は我も我もと桜の下へ押しかける。おかげで風呂屋はお客さんの代わりに閑古鳥が舞い込んできたよ。そういえば今日はエープリルフール、四月馬鹿だ。関係ないか−−。






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